シュレーディンガー博士の猫の足跡

PBCの記録、ゲームレビューなど不定期にだらだらと書き連ねて行くブログ

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縛―バク―


発売中止。その四文字が宣告されたのはつい先ほどの事であった。
開発期間が余りにも長すぎた結果、利益に結びつく事が不可能と言う事態で発売中止となった次第である。
こんな事は日常茶飯事であった。この物語の主人公である一人のプログラマーもまた同じ考えであった。
彼は、発売中止となったゲームのプログラムを画面越しにボーっと眺めていた。
数多の人間がこれに携わり、そして自分を含めた様々なプログラマー、デザイナー、クリエイターが混ざりこんだ一つの物。
これがこの世から消えてしまう。中止と宣告されたのだから仕方が無い。だけれども、名残惜しいと思う気持ちも大きかった。
時間は既に午前の二時を過ぎていた。いつまでこうしているのだろうか。早く帰ろうと思った。
その瞬間に、彼の意識は一瞬の内に何処かへと飛んでいってしまったのである。

彼が目覚めた時は既に午前の十時を過ぎていた。会社で一晩過ごし、しかも十時に目が覚めたなんてとんでもない事であった。
慌てて辺りを見渡す。しかし、誰も居なかった。いつもは同じプログラマーやゲームのディレクターなどの様々な人がごった返すこの空間に、自分一人だけが椅子に座りパソコンの画面を見ていたのである。
「…おかしいな?」
スッと立ち上がって歩き始める。部屋から出ても人の気配は無い。
シンとして不気味であった為、思わずまた再び部屋の中に戻ってしまった。
「何で誰も…」
何が何だか解らないまま、取り合えず外の様子を見ようと窓へと近づいていく。
「…何だ?あれは…」
外にいたのは、アリクイかイノシシの様な姿の物が二足歩行で歩き、しかもれっきとした人間の服を着て道を往来していたのである。
驚いて、一歩後ずされば背後から声が聞こえてきた。
「目が覚めたかえ?」
ハッとして声の方向を向けば、そこには少女と思われる人物が一人、椅子の上に佇んでいた。
黒い袴の巫女装束。白く長い髪を束ねただけの髪型。そして顔には真っ白の狐のお面を被っていた。
その少女は、自分達が作り上げたゲームのテストプレイを行いながらほほッと軽く笑い。
「これが世に出されぬとは残念じゃのう」
何て事を言い出す。それが彼に取っては怒りの琴線に触れたのかカツカツと近寄りながら
「関係者以外立ち入り禁止だ。一体何処の子だ?それにゲームの発売中止は良くある事なんだ。それが発売されないのも仕方が無い事なんだ」
その様に、少しばかり怒鳴る口調で言えば、少女はほほッと軽く笑ってコントローラーを机の上に置きながら
「外は見たかえ?」
その様な質問をする。彼はムスッと腕を組みながら沈黙を続けていたが、少女は構わず窓へと近づきながら
「あれはバクじゃよ」
「…バク」
反復する様に彼が答えれば、少女は彼の方を向いてコクリと頷き。
「そう、夢を食べるバクじゃ」
彼は首を左右に振って見せた。余りに滑稽すぎたからである。
「馬鹿馬鹿しい。そんな物は後世の人間の創作だろう」
などと反論をする。しかし、少女はその仮面の裏でほほッとまた少しだけ笑いながら
「窓を見ると良い。もう一度、のう」
とだけ、言うのだった。正直言えばこの少女が何者かも解らないし、部外者である事は確かである。
それと同時に「これは夢なんだろう。きっと夢を見ているのだ」と言う考えが彼の中にもあったのであろう。
自然と体は窓の方へと進んでいった。もう一度。バクと呼ばれた生物をしげしげと眺める。
確かに、創作のバクとそっくりであった。しばらく眺めていると一人の元気な男の子が一人のバクの横を通り過ぎようとした。
その瞬間である。バクは大きな口をあけて男の子の頭から光り輝く何かを吸い取りだし、そのままむしゃむしゃと食べてゴクリと飲み込んでしまった。
さて、その光り輝く物を食べられた男の子とは言うと、先ほどまで元気一杯で笑顔であったにも関わらず今度はトボトボと元気を失い俯きながら歩き始めたのだった。
一方、その光り輝く物を食べたバクは満足そうにお腹をさすってまた歩き始めたのである。
「な、何なんだ…あれは…」
「言ったじゃろう?あれはバクだと。バクは夢を食べる生物。あのバクはあの子供の『夢』を食べたのじゃよ。希望に満ち溢れた、のう」
そんな解説を入れるのは先の少女であった。それにまた彼はムッとしながら
「一体どう言う事だ!?」
「バクは子供の『夢』を食べる。そして『夢』を食べられた子供は大人になり、自らバクとなって子供の『夢』を食べようとする。あたかも、自分が成し遂げられなかった『夢』を望む様に」
「馬鹿馬鹿しい。一体お前は何が言いたいんだ?」
「そなたも、バクなのじゃよ。子供の『夢』を食べる、のう。もう一度窓を良く見よ。自分の姿が見える様に、のう」
そう言われてハッとしながら窓を見た。窓に映る自分の姿は、町を歩いているバクそのものであった。
「嘘だ…」
「それが、真実なのじゃよ。さて、わらわは部外者であったな。では、さらばじゃ」
その様に言った少女はこの部屋の扉を開けて何処かへと行ってしまった。
一人残された彼は、窓を眺めながら呆然とするだけであった。ただ、『嘘だ嘘だ』とおぼろげに呟きながら。

目が覚めた。時間は午前7時であった。彼は、電源を入れたままのパソコンの前にいた。
最初は自分の手を見た。人間の手であった。次は顔を触ってみた。人間の肌であった。
「やっぱり夢だったんだ…」
その様な安堵の息を漏らしながら、パソコンの電源を切ろうとしたその瞬間である。
「おはようございまーす」
この部屋に誰かが入ってきた。同僚のプログラマーの声であった。もちろん彼はすぐさま『おはよう』と言うつもりであった。
が、しかし、その声は即座に『ひッ』と言う悲鳴に変わる。彼の目に映ったのは夢に見たバクそのものだったから。
「どうしたんですかー?昨日も貫徹でプログラム組んでたんすか?」
その様に言いながら近寄るバクに、彼は必死に手を前にやって慌てふためきながら
「止めろー!!近づかないでくれー!!僕はバクじゃない!!バクじゃないんだー!!」
そんな叫び声を上げ頭を抱えながら、彼はこの部屋から逃げ出す様に出て行ってしまった。

彼の首吊り死体が見つかったのはそれから数日経っての事であった。
彼の遺書にはこんな言葉が残されていた。
「僕はバクなんかにはならない。子供の夢を食べ肥え太らせた大人に何かなりたくない。子供から夢を奪いつくして大人達だけ肥える様なそんな世界になんかいたくない。それだったら死んだ方がマシだ。僕はバクなんかじゃない」
  1. 2010/12/20(月) 19:11:50|
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